太陽高度の公式の導出

計算の詳細で使ったこの公式を、高校数学の「空間ベクトルの内積」だけで導きます。

sin h = sin φ · sin δ + cos φ · cos δ · cos H

使う道具は3つだけ。①空間の点を (x, y, z) で表すこと、②ベクトルの内積の公式(a·b = |a||b|cos θ。今回は長さ1の単位ベクトルなので a·b = cos θ)、③三角関数。太字(ns)はベクトルを表します。それぞれの記号は、φ = あなたの緯度、δ = 太陽の赤緯(太陽の真下の地点の緯度)、H = 時角(太陽が真南からズレている角度)です。

方針

太陽の高度 h は「地平線から太陽まで」の角度です。これを直接測る代わりに、「天頂(真上)方向」と「太陽方向」のなす角 θ を考えます。太陽が真上にあれば θ = 0° で h = 90°、地平線上なら θ = 90° で h = 0°。つまり

h = 90° − θ → sin h = sin(90° − θ) = cos θ

そして、単位ベクトルどうしの内積はなす角の cos そのものです。だから「天頂方向の単位ベクトル」と「太陽方向の単位ベクトル」を作って内積を取れば、それがそのまま sin h になります。あとはベクトルを成分で書くだけです。

座標系を決める

地球の中心を原点に、宇宙の方向(天球)を使って次のような直交座標(x,y,zがすべて90°で交わる軸)を取ります:

このようにx軸やy軸を「見慣れた空の方角」に合わせるのがこの導出のコツです。こうすると経度が式から消えて、時角 H だけが残ります。

2つのベクトルを成分で書く

空間の斜めの矢印(ベクトル)を (x, y, z) の成分に分ける基本ルールは、「まず高さを sin と cos で出し、地面に落ちた影をさらに水平面で分ける」という2段階のステップです。どちらのベクトルも長さは1とします。

天頂方向 n の作り方

あなたの「真上」は、真南(x軸)から北極星(z軸)へ向かって、あなたの緯度 φ のぶんだけ首を上に向けた方向です。
1. 高さ(z): 角度 φ だけ上を向くので、高さは sin φ です。
2. 地面の影の長さ: 残った横の長さは cos φ になります。
3. 影を分ける(xとy): 真上方向は、真南から東西(y方向)には一切ズレていないので、影はすべてそのまま x軸に乗ります。つまり x成分が cos φ、y成分は 0 です。

これらを (x, y, z) の順に並べると、天頂方向のベクトルが完成します。

n = ( cos φ, 0, sin φ )

太陽方向 s の作り方

太陽は赤道から δ の高さにあり、真南(x軸)を基準にして西(y軸)へ H だけ回った方向(時角)にあります。
1. 高さ(z): 角度 δ だけ高い位置にあるので、高さは sin δ です。
2. 地面の影の長さ: 赤道面に落ちた太陽の影の長さは cos δ です。
3. 影を分ける(xとy): この長さ cos δ の影が、真南(x軸)から西(y軸)へ角度 H だけ回っています。影の長さを斜辺とした直角三角形をイメージすると、x方向には cos H を、y方向には sin H を掛ければ成分を分けられます。

これで太陽方向の3つの成分も揃いました。

s = ( cos δ · cos H, cos δ · sin H, sin δ )

内積を取る

どちらも長さ1のベクトルなので、内積がそのまま cos θ です:

cos θ = n · s
  = (cos φ)(cos δ · cos H) + (0)(cos δ · sin H) + (sin φ)(sin δ)
  = cos φ · cos δ · cos H + sin φ · sin δ

最初に確認した sin h = cos θ を使えば:

sin h = sin φ · sin δ + cos φ · cos δ · cos H

導出はこれだけです。y 成分がゼロと掛かって消えるのは、x軸を自分の経線に合わせたおかげ。「球面三角法の公式」という名前がついていますが、正体は内積の成分計算1行でした。

検算: 南中(H = 0)で cos H = 1 とすると sin h = sin φ sin δ + cos φ cos δ = cos(φ − δ)、つまり h = 90° − |φ − δ|(絶対値をつければ、ハワイなどの熱帯で太陽が北側を通るケースも完璧に表せます)。夏至の大阪(φ = 34.7°、δ = 23.4°)なら h ≒ 78° で、理科の教科書の値と一致します。真夜中(H = 180°)なら cos H = −1 で高度は最小になります。

この導出で使った近似

2つだけ、暗黙の近似があります。①地球を完全な球とみなす(実際は赤道方向にわずかに膨らんだ回転楕円体。緯度の定義に最大0.2°ほどの差が出ますが、空の色には影響しません)。②太陽を無限に遠い光源とみなし、「地球の中心から見た太陽の方向」と「あなたから見た太陽の方向」を同じとする(太陽までの距離は地球の半径の約23,000倍なので、この差は最大でも0.002°程度です)。